【イベント記録】第2回奥出雲の教育を考える会「学校再編検討の進め方」の内容をご報告します。
- 奥出雲あすなろ教育の会
- 2019年7月12日
- 読了時間: 26分
更新日:2020年1月29日
2019年7月3日(水)第2回奥出雲の教育を考える会「学校再編検討の進め方」を開催しました。
益田市と出雲市から講師をお呼びし、学校再編に関わる具体的なお話をお聞きしての意見交換を行いました。参加者は約50名、とても熱気あふれる会となりました。
たくさんの方にこの会の様子を知って頂きたく、講師のお二人にご許可頂き、内容を掲載いたします!
1.益田市「今後の小中学校の在り方に関する基本方針」 策定の考え方・進め方 策定の考え方・進め方
益田市人づくり専門監 大畑伸幸氏
益田市では、学校は地域の中でどんな存在なのか、地域の中で学校の存在をどう思っているのか、ということを考えて施策を展開してきました。その延長線上で学校の統廃合のあり方について検討しました。益田市はお手元にあるように、小学校は基本的に統廃合しない、中学校はできる限りしていく、小学校は地域の様々な拠点にするという方針を立てました。小学校を地域の様々な拠点に、というのは、簡単に言うと小学校を公民館化するということです。中学校は無くなるけれど、中学生が学校外の様々な地域の活動に出ていく、公民館を核としながら、中学生は地域の中で活動する、という整理をしました。
小学生は学校だけで育てない、親だけで育てない、という考えがベースになっています。学校とは地域にとってどんなものなのか、子ども達だけのものなのでしょうか?子供たちがいる、という価値をどうとらえるかということです。子どもを育てる責任は誰にあるか、が一番のポイントです。「お前の子どもは何だ。」と言うような地域は、益田市で考えていることは受け入れられない。登下校時にあいさつしない子どものことを、大人たちが学校に「どうなっているんだ。」と言う地域では受け入れられない。子どもは誰の子か、というと親の子だが、間違いなく「社会の子」であり「地域の子」だと思っています。
将来子どもたちが大人になった時、今頑張っておられる方たちの営みを一緒になって経験しなかったなら、その営みを本当にできるのだろうか、というのが益田市のライフキャリアという考え方です。今いる益田の人たちの生きざまを、しっかりとロールモデルとして味わっていかないと、やったことのないことを将来やらないだろう、というのが私達の考えです。子どもたち自身が学校という活動で、学校教育のためだけに学校に通って家に帰って、付き合える大人が親と学校の先生だけということを続けている限り、子どもたちは地域で頑張っている方たちと関われず、「将来あのおじちゃんみたいになりたい。」というような思いを持たずに、または「こんなことで楽しかったな。」というような経験なしに、将来帰って来て地域活動をするでしょうか?私はしないと思います。
公民館活動が盛んな長野県飯田市で、東大の先生が入って研究したところによると、15歳までに地域活動をたくさんした子どもたちは将来その地域に帰ってくる率が高いと同時に、帰ってきた子どもの地域活動をする率が高いという結果が出ています。人は、やったことしかできないという事なんだろうと思っています。学校教育にすべて任せ、先生に任せるようなところでは、こどもたちの地域の経験はどうでしょうか。
一番衝撃的だったことを紹介します。一昨年度から行っいる中高生への調査の中で、「益田に魅力的な大人がいるか」という設問で、「いる」と答えたのは48%だけでした。半数以上は「魅力的な大人がいない」と回答しています。「親や先生以外に気軽に話ができる大人はいますか」という設問では、「いない」という子が55%でした。いろんな活動をしているにもかかわらず、思った以上に、大人への信頼感やつながりがなかったということです。そこをしっかりやらないとならないと考えて取り組みをしています。
従来、翌春の就職希望の子どもたちのうち、だいたい4割は地元希望ですが、実際は3割しか就職していません。来年の就職希望者のうち57%が地元希望になりました。地域の方が子どもとしっかり対応し話を聞く、ともに地域の活動をするというのを丁寧にやっていった結果、地元への愛着が増えるというよりも、益田には魅力的な大人がいるのだな、評価をする大人ではなく対応してくれる大人がいるという、信頼感・つながりが増してきた。そのことによって、成果が出てきているのだと思っています。
小学校を残す、学校教育のために残すとは思っていません。小さい学校のメリット・デメリットはあると思います。でも、小さいからこそ、学校で地域の方が日常的に活動する。活動する姿を子どもたちが見る。土日の公民館活動にて子どもたちが入っていく。そうして子どもたちが地域の大人の考えや生き様や思いや活動を知っていく。そうすると子どもたち自身、地域への思いをもって、都会に出るかもしれないが、この町で生きるという選択肢がでてくる。益田市は、ただ「学校を残す」という選択をしていないのです。
モデルとなっている豊川小学校のように、学校(という施設)の中に、学校教育ではない放課後や土日などで、子どもたちの様々な育ちの場、さまざまな活動を作っていくという事をしています。すなわち、子どもたちが、日々元気に地域で活動し生きている人々と日常的に会う事ができる場所として、学校を残すということをしています。行政的には学校を残すのですが、親任せ学校任せで残すのではありません。
学校の持っているポテンシャルはもっとあるのです。学校は基本的に歩いていけるところにあるし、夕方も土日もあいている、耐震化も進んでいる、このポテンシャルを子どもたちの学校教育の為だけに使うのはもったいない。行政からすると、そういう風につかうのであれば学校を地域の拠点施設として使うというのは当たり前の議論になります。子どもたちの育ちを学校任せにするという事は、子どもたちがこんなに生き生きとしている人たちと触れないという事で、地域に帰ってこない、地域に帰ってきたとしても地域活動をしないということになる。持続可能な地域になるためには、地域総合力の教育をどう作るか、地域側の課題であるのです。それをするのであれば学校を残していきましょうというのがこの指針の中の柱だと思っています。情緒的な部分ではなく、現実的な面をみたとき、ポテンシャルを持っている施設を、子どもたちを、将来の住民・地域づくりの担い手をどう育てていくのかという視点で、親任せ学校任せではなくみんなで作っていくのだということです。
もう一つ、子どもたちはみんな主役になれる力があります。子どもたちの意見を大人と同じように扱うことで、子どもたちがもっと輝いてくるという事がわかってきました。そういう場として、小学校を残していこうというのが益田市の結論です。具体的な整備計画は今年作ります。
大事なところは一つ。子どもを親任せ学校任せにする地域で、学校がいるかどうかという議論をするのは正しいのかどうか。学校に地域づくりのポテンシャルがあるということは、行政は理解できることです。まずは、「みんなで育てる」ということから始まり、では「どう育てれば、頑張る大人たちの姿を子どもたちが体感できるようになるのか」というところが大事なことだと思っています。益田市は、こういう対話を通して丹念に小中校と続けていく、その中で小学校を残していく、小学校の建物としてのポテンシャルをもっと生かせるよ、ということが昨年度から益田市が考えてきたことです。
【質疑応答】
Q 指針を作るにあたって、住民や、市役所の他部署のかかわりはどうでしたか?
A 前段として、総合戦略の中で人づくりをするという柱を作っています。持続可能な人づくりが持続可能な地域づくりになるという共通理解ができるベースがあったので、指針の理解は早かったです。全庁的な話にしていかないとならないです。学校という教育委員会所管の施設をどうするか、学校教育をどうするかという議論ではそうはなりません。
住民のかかわりは、条例に則り、行政だけでは解決できないことに対して、住民代表と有識者のいる審議会を設けて検討するということで、審議会の中で住民の意見を聞いたというのが益田市の整理です。
Q 保護者の中には、それでも統合してほしいという方はいなかったでしょうか?
A そういう方はもう移動されています。移動したくなくなる責任はどこにあるのかというと、学校ではないですね。住民全体で、子どもたちをちゃんとみる、ということをしていくのです。移動するのは行政だけの責任ではない。子どもたちが育っていると親が実感すると、なっていくということです。4年前に、市内で一番大きい吉田地区の小中学生の親に調査をしました。学校外の様々な地域の方による体験活動にたくさん参加させている親ほど、将来、益田に子どもに帰ってきてほしいと考えているという有意差が出ました。子育ての安心感は具体的なものだと思っている。学校教育だけに丸投げしていれば安心しないだろう。一番大きい地域で体験がそれほど大きくない地域でもこういう結果が出た。これがヒントだろうと思います。
Q 学校の公民館化、というお話がありましたが、管理はどういうふうにされるのでしょうか?
A 社会教育コーディネーターという学校と地域をつなぐ専門家をいれています。これは私の権限ではできない事ですが、将来は地域に自主組織を作り、自主組織が公民館と一緒になって学校という館を管理し、学校教育が間借りするという形も良いのではと個人的には思っています。
Q 地域自主組織という言葉がありました。奥出雲町には公民館がありますが、雲南市には公民館がなく、交流センター方式で自主組織でやっています。その時に学校を公民館化するということは、教育委員会部局で運営しているので、うまく統括しくと思います。それを将来的に地域自主組織にしていくというのは、教育というのを学校教育だけでは成り立たない、地域の力をつなげていくという形にシフトしていくというのをお考えなのでしょうか?
A 益田市は、地区振興センターと教育委員会の公民館が2枚看板でしたが、この春から、公民館に一本化しました。これは持続可能な人づくりをする、世代をつないでいくと言ことを丹念にしないとならないということです。地方には後継者がいないというが、いないのではなくいるのです。今いる人をつなげていく、これは意図しないとできません。だから教育の専門家である公民館の仕事の優先順位として、世代をつなぐ活動をしっかりやっていく、公民館が持続可能な人づくりの鍵となる役割を果たすべきだということを、今後の公民館の在り方の指針に書いていて、その方向で今年度取り組みを始めたところです。
檜谷さん(島根県中山間地域研究センター)コメント
学校というものが教育をやっているが、地域の方々がどういう風に子どもを育てていきたいのかという思いがないと、学校だけをみた議論だと色々な合理性の中で判断されることになると思う。統合にしても残すにしてもあくまで手段なので、どういう人づくりをするのか、こういうふうな子どもの成長を願っているのでこうするというところがないと、残すために残す、統合するために統合するということだけでは、何も生まれません。奥出雲でも色々な考えがあると思いますが、どういうふうに人づくりをしていきたいのかという議論が先にあって、そのために学校はこういう形がいいのかとか、もしくは地域にないといけないとか、子どもたちと地域がどうやっていかなければならないとか、そういう議論がおこらないと。学校そのものは行政のものになってしまいがちなので、みんなで子どもを育てていくんだよと言うこと、そういう動きやメッセージは、やっていけば保護者にも伝わるし、子どもたちにも伝わると思うし、統廃合というのは手段なのかなと思っています。
2. 地区での再編検討委員会の進め方
出雲市 伊野自治協会会長 多久和祥司氏
伊野は、一畑電車の伊野灘駅、松江と出雲の境目にあります。その自治協会の会長をしています。出雲市には小学校区単位に43のコミュニティセンターがあります。かつて公民館だったものです。コミュニティセンターは社会教育だけではなく行政の一端を担う組織です。自治協会とコミュニティセンターがタイアップしてまちづくりを進めるという形になっています。
学校再編についての具体的な話に入ります。
伊野地区の人口はいま1260人です。10年後には間違いなく1000人に近づき、さらに減少するだろうといわれています。それを食い止めるだけでなく増加に転じたい。小学校児童数は平成元年に141人で今年は48人です。これから少し増え、3-4年後には60人後半になります。出雲市が学校再編計画を示した時の予測は今年40人くらいでしたので、その予測を裏切ったかたちです。
学校再編を考える検討組織として、地区ごとに検討委員会を作って、そこで検討して結論を出してくださいと、2012年の11月に市から投げられました。大規模な学校再編です。結果的に学校再編を断ったのは、伊野小学校ともう一つ稗原小学校。あとは統合に向けて突き進んでいます。伊野の場合、検討委員会のメンバーは23人、うち保護者9人、その中には乳幼児の保護者も含めました。その検討委員会の進め方としては、A・Bグループに分かれて議論を進めました。Aグループは子どもの育ち・成長・発達を学校や地域がどう支えていくかという議論、Bグループは地域と学校の関わり、地域の将来にとって学校はどういう役割を果たせばいいのかという事で議論をしました。保護者の皆さんの意見を広く聞くために、保護者会を数回開催しました。これは検討委員会の保護者メンバーが中心になって開催しました。2年半にわたって検討を続けました。途中で中間報告書を作ってお示ししました。亀嵩小学校をはじめとしていくつかの地域や学校の視察もしました。最後の決定は、自治協会の代議員会で意思決定しました。明治以来続いている学校を閉じるかどうかというのは地域にとって重たすぎる課題で、つらい思いをしながら検討してきました。大事にしてきたのは、民主主義、合意形成でした。一番心配したのは地域が分裂する事。どちらに決定しても地域にしこりが残ってはいけないので、丁寧な話し合いをして合意形成につとめ、そのために情報発信・公開に努めてきました。
子どもの最善の利益(教育の条理)に基づく議論をしてきました。学校再編の議論でたいてい出てくるのは、複式教育だと学力が大丈夫なのか、とか、小規模校で育って中学校にいくと不登校になりやすい、とかです。でもこれは本当なのでしょうか。わりと、「そうだろうな」という風に流れていきやすいですが、本当にそうなのかは丁寧に検討していく必要があると思います。
論点として、複式教育だと学力が伸びないのかということがあります。伊野小学校の教職員の皆さんが、広島大学の付属の東雲(しののめ)小学校というところに視察に行かれた内容をお聞きしました。そこではわざと複式教育のクラスを作っています。普通のコースと別に複式のコースを作っているのです。かつて島根大学にもありました。広島大学付属小で聞いたのは、どちらのコースになるかは保護者の希望なのですが、複式コースの方が圧倒的に希望が高いということです。卒業時、学力に相違はないが、人間力というか、その他の面が複式教育の方が伸びているという結果がでているそうで、それで保護者は複式を希望するということです。
それと、小規模校だと社会性とかコミュニケーション能力は育たないのかという論点もあります。玉湯町の大谷小学校、当時児童数19人に視察しました。大谷小学校のお母さんがこんなことを話してくれました。「自分は松江市の大規模小学校で育った。大きいので自分の好きな人と遊んだり話したりすればよかった。大谷小で我が子はたった19人の集団に入った。気の合う人だけでなく気の合わない人ともやっていかないとならないので鍛えられる。自分の意見と会わない人と一緒に活動したり合意を作ったりして活動していく中で息子は成長したと思う」と言われました。大きな集団に投げ込めば社会性やコミュニケーション能力が発達するというのはおかしい。親密な関係の中で、大人と子供の丁寧な応答関係の中でないと社会性やコミュニケーション能力は育たないのではないかと思います。
小規模校だと競争心が育たなくて切磋琢磨しない、という論点もよく保護者から言われます。スポーツではそういうところもあるかもしれないですが、学習の面で、競争であおりたてて学習効果を出すというのが教育的なのかどうか。スポーツチームを単独でつくれない。これは小規模校だけの問題ではないです。仁多小・横田小でスポ少を作られています。松江や出雲でも、単独でスポーツチームを作れないようになっています。参加すると保護者の負担も大変ということで、参加しない子供もおおく、単独で一チームはできないのです。
視察で学んだことの中で、亀嵩小学校へ行った時のことをご紹介します。当時全校児童数は34人だったと思います。県産材を使った立派な木造校舎で100年持つと思いました。学年を超えた集団作りをとても上手に行われていて参考になりました。小規模校は先生の数もすくないので専門性を持った先生が集まりにくいという話もあります。亀嵩小学校では、地域にお住いの色んな能力を持った大人に参加してもらう、地域の力を結集するんだという話をしてくれました。マラソン大会で地域の人が沿道に出て応援してくれる、弁当の日は子どもたちが親の手を借りずに買い出しから弁当作りをするのですが、先生やPTA会長も自分で作って一緒に食べるんだ、ということなど、小さな学校の魅力を最大限に発揮されていると思いました。
大谷小学校の校長先生は、切磋琢磨ではなくて、思いやりを大事にしている、生きる力の柱として、注目していきたいと話していました。大谷地区では、保育園、幼稚園・小学校・中学校一貫の勾玉学園という組織になっています。子どもが3歳くらいのころから子供、親が出会う機会がたくさんあります。昔だったら大谷小学校から中学校へ行くと田舎者といわれたが今はそういうことはないということも話していました。
学校がなくなった地区がその後どうなっているかも視察しました。入間小学校跡地の入間交流センターは、小学校を改修して宿泊できるようにしてあり、利用者も多いです。学校は無くなったが子育て事業として通学合宿をしていました。1週間交流センターに寝泊まりして学校に通うというもので、これも面白いと思いました。
2年ちょっとかけて、結局存続という決定をしました。どう決めたかというと、議長の私をのぞく検討委員会23人が投票をしました。統合賛成はわずか6人でした。どうなるかわからず賛否同数になったらどうすればいいかと思っていました。保護者メンバー9人のうち、統合に賛成だったのはおそらく4人位だったのではと思います。最初の内、保護者の皆さんは不安を抱いていましたが、視察や議論をふかめていくうちに存続で大丈夫と思われたのかもしれない。
存続を決めましたが、保護者の皆さんの多数は統合賛成だったので、丁寧な説明をし、保護者の皆さんと地域の教育づくり、小規模校の支援をしていかなければと思いました。小規模校の魅力発揮と困難支援ということで、地域学校連絡会議を早速開催しました。今私たちが何をやっているかというと、ひとつは財政の支援です。広島に1泊2日修学旅行をすると、伊野小学校では3万円かかります。出雲市大規模校の塩冶小学校は2万3千円くらい。卒業アルバムの制作費は、1万800円。塩冶小学校は8千円。こういう財政支援をしてもらえないかという話がすぐに出ました。塩冶小学校の基準で、オーバーした部分は財政支援をすることにしました。でも自治協会にもそんな予算はありません。伊野ふるさと会員の皆さまからの寄付なんです。伊野のまちづくりを応援してくださる方にご寄付をお願いしています。3年前からはじめました。5千円の寄付を頂いた方にはふるさと納税みたいに伊野産のシジミやサザエや新米をお送りするという仕組みになっています。毎年「伊野ようがんばっちょーなー」といって寄付を下さる方が増えています。そこからお金を出しています。
それから、労力支援をしています。なにせPTA会員数も40名足らず、それと先生たちで、あの広い校庭の草刈りをするのが大変です。これも地域の皆さんに呼び掛けたところ、たくさんの人が集まってくれています。小学校のプール掃除が大変で、小学校1-2年生は手にならないので、高学年と先生でやると半日で終わらない。これもなんとかならないかという話がでて、一昨年から高齢者クラブにお願いしています。
それから人材の派遣です。小学校6年生の国語の教科書に「町の幸福論」という文章が載っています。これを書いているのは山崎亮さんといって、町づくりの専門家、コミュニティデザイナーです。3年前から出前授業をしてもらっています。その他に亀嵩小学校のようにミシンの指導者や地域学習の指導者やという形で人材派遣をしています。
イノベーションといって、島根大学の教育学部の学生たちと伊野地区の大人たちのコラボ事業をしています。宍道湖から日本海側まで突き抜ける地域なのですが、その自然を使って子どもの遊び場を作るとりくみです。田んぼで泥んこ運動会というのもやりました。赤名公民館との連携ができて、夏は赤名の子たちが伊野にやってきて海で遊ぶ、冬は私たちが赤名に行ってスキーを学ぶという風にしています。
高齢者の皆さんから、学校が残るという事にはなったが、井の中の蛙になってほしくない、子どもたちの目が外に向いてほしいという声がでたので、国際ワークキャンプという取り組みをしています。海外の学生や日本の学生を呼びます。地域の独自プログラムとしてやっています。去年からは伊野小学校の宿泊研修とコラボして、この大学生たちが一緒に泊まるという風にしています。
仁多米も美味しいですが、伊野のコメも美味しいです。でも農業者が高齢化して離農して辞めたいという人が大勢います。地域農業を維持する取り組みとして、2014年から産直市「伊野いち」をはじめました。私たちが一生懸命やっているものだから、こどもたちが「大人は何にのぼせているの?」と言い出したところから、子どもたちがスタッフとして参加するようになりました。小学校の総合的な学習の時間の一環です。お買い物客の荷物を運んだりレジを手伝ったり、おもてなしコーナーでおにぎりを無料でふるまう配膳のスタッフをしたりするのです。お客さんたちの魅力は子どもたちが参加する事です。2017年には、子どもたちと先生が伊野いちのコマーシャルソングを作ってくれました。会計が行列になり、お客さんたちがイライラされるのですが、そこで子どもたちが伊野いちの歌と、ふるさといのという歌をご披露するという風になっています。
こうして地域学習を積み重ねて、最後6年生の国語で町の幸福論を勉強し、将来伊野はこういう風になって欲しい、そのためにこういう取り組みをしてはどうかと考えて、地域の人たちの前で発表します。子どもたちに地域づくりに参加させるという取り組みが年々充実してきています。高校生もこうしたイベントにスタッフとして参加するようになっています。
伊野児童館があります。放課後児童クラブのようなものですが、平日10時から17時まで開館している。料金はいらずだれでも利用できるようになっています。春休み夏休み冬休みにも預かってほしいという要望がでるようになり、ボランティアを募り、出雲市放課後子供教室授業を使って、長期休業中は8時から17時まで児童館とコミセンが預かる体制を作りました。
学校再編の話は、なかなか正直言って盛り上がりませんでした。いまだったら盛り上がると思います。今年は、10年後の伊野を考える戦略会議を立ち上げました。70人が参加し、部会に分かれて熱い議論を展開しています。去年は伊野の将来を考えるという動画を作り、各集落全部で上映し意見を聞いてきました。ものすごく活発な議論が可能になってきました。今年中に伊野ビジョンを完成させるつもりです。
Q 田んぼの運動会や国際交流は地域の方がお手伝いしていると思うが、スタッフの人数や負担はどうでしょうか?
A 国際ワークキャンプ実行委員会、イノベーションは主にコミセンスタッフが担当しています。コミセンスタッフは4人体制で、まちづくりが進むにつれて仕事が多くてアップアップになり、「コミセンの働き方改革を考えてくれ」とまで言われるようになっています。それで、立ち上げの手伝いはコミセンや自治協会がしますが、1-2年たったら独立してほしいと言って、だいたい実行委員会形式でやっています。
3.様々な自治体の 「再編方針」「教育ビジョン」を読む
奥出雲あすなろ教育の会 代表 宍戸容代
教育委員会から各地区への説明会の会場や、様々な場で、学校再編方針について「寝耳に水」とか「地区での検討1年は短すぎる」とか「3年後に統合では準備が間に合わないのではないか」とか「人数の事しか言っていないが、どういう風に子どもを育てたいのかが見えない」といった意見が聞かれます。また、これから地区別に協議を進めてください、と言われていますが、それはどんなメンバーでどういうことを話し合えばよいのかも見えない状況です。では、どのように再編の検討を進めればよかったのか、どんなことを検討すればよいのでしょうか。他の自治体ではどうやっているのかを調べてみました。
島根県内や隣の鳥取県の市町村の再編方針や教育ビジョンに関わる資料を集めてみました。なかでも、三朝町のホームページの「小学校統合に関する経過について」がすごいです。何がすごいかというと、統合方針に関わる議論が、スクロール5回分もつづられているのです。そこには、一度決めた方針が、議会や住民からの意見で二転三転し、住民からの不安や不満が噴出し・・・という様子が出ています。地元からの要望書に、「PTAにも地域にも丁寧な説明も合意形成もないまま、平成31年4月3項同時統合を決定した」「今回決定された「平成31年4月の3項同時統合」について合意した覚えはありません」などと記載されています。
奥出雲ではこれからどうなるでしょうか。学校再編は色々な考え方の人がいるので、合意を得ていくのは難しいのは確かです。でも、なし崩しにすすめられることではなく、議論を出し尽くすことで納得感を出すことができるでしょう。
さて、色々な自治体の再編計画や教育ビジョンを見ていきます。
雲南市では、市町村合併の前から、旧掛合町で小学校の統合が検討されてきました。検討開始から10年かけて統合。その間に市町村合併があり、合併後すぐ、市内の学校再編の議論がはじまり、審議会への諮問・答申があり、その後追加調査があり、平成22年に基本計画が出される、という流れで行われています。住民の意見は、審議会の段階で住民代表が参加、住民アンケート実施、答申後にも地区での協議会開催、計画実施の段階でも地区で協議、という形で、丁寧に進められています。審議会の答申の内容自体は、奥出雲町とあまり変わりありません。極小希望校はすぐに統合、小規模校は長期的に統合を検討、という形です。でも、奥出雲町よりも丁寧に進められている感じを受けます。雲南市で、統合に関してすごく揉めた、という話は聞きません。
津和野町も、審議会への諮問、答申、計画策定という流れは同じで、16人以下のごく小規模校を統合という方針も同じですが、新聞にも取り上げられましたが、ごく小規模校の左鐙小学校で、学校存続の運動があり、移住者を増やすような住民独自の取組みがされたにもかかわらず、統合計画にこだわり廃校になったということがありました。
奥出雲町の場合はどうでしょうか。審議会への諮問、答申、計画策定というのは同じなのですが、一つ違うのが、答申から計画策定までの間が10年もあるという事です。他の市町村では、10年もたてば再度、審議会への諮問・答申・・というところからやり直して新しい計画を立てる期間です。社会情勢の変化もあります。答申から10年がたって、計画策定を教育委員会だけでやっているので「寝耳に水」という反応が出ているのだと思います。
統廃合検討の基準はどうでしょうか。浜田市は、複式学級のある学校を対象に検討をされています。しかし、判断基準はそれだけではなく、校舎の耐用年数や通学条件、地域コミュニティの存続等の観点も加えられ、その結果、一律に統合という結論ではなくなっています。
また、神石高原町では、小規模校の地区に定住団地を作り人口増を目指しています。子どもが減ったから統合するというのが奥出雲町をはじめ多くの自治体のやり方ですが、神石高原町では子供が減ったら人口を増やすという方向で進めています。
隠岐の島町の計画も面白いです。「小中学校規模の適正化基本計画」を作られたのですが、「規模適正化計画」の中に、教育目標や方針がしっかり描かれ、魅力ある学校づくりのための様々な施策が盛り込まれています。教員負担を軽減するため町費で職員を雇うとか、複式学級の教育ができる教員を育成するとか、コミュニケーション能力育成のための様々な交流を行うためにバスやICT機器を導入するとか、様々な対策が書かれています。
まとめますと、他の自治体での例を参考に考えると、学校再編の検討は、有識者や保護者、地域住民を含む検討委員会での検討、地元懇談会などでの協議や学校現場の意見聴取をして方針をたてるべき、また、計画にこだわり過ぎずに地域の意見を尊重して実施するということが大事なポイントになりそうということ。また、検討する内容としては、校舎の耐用年数や通学条件、地域コミュニティの存続などの観点も入れて考える、魅力ある学校づくりのための具体的な施策も考えていく、そして、人口を維持する方策も考えていくことが大切、というところです。
4.班別意見交換
事例発表(講演)のあと、「地区別協議の進め方」「町全体での再編検討の進め方」のテーマで班に分かれ、意見交換を行いました。各班で出された意見を抜粋します。
〇 地区別協議の進め方について
・ 保護者はもちろん、地域を支えている大人を交えて地区別協議会を作っていく。ふだん保護者同士が繋がって話すことがあまりないので、実際どうなのかというところを聞いていく場が大事。
・ 様々なシミュレーションが明らかにされていない事が不満材料になっている。保護者や、これから保護者になる人も含めて、自分の意見をまとめるための勉強会が必要ではないか。
・ コミュニティとして考えたいので、老人たちや中学生・高校生たちの思い、保護者世代の思い、子どもたちの思いを伝えあうことが必要になってくる。地域が割れることは避けたいので、丁寧な説明や合意形成が必要。
・ 町から出された再編方針についてもっと話し合う時間が足りないのではないか。また、教育委員会ともっと対話をして、どこをどうするか詰める時間が必要ではないか。
・ どんな人が旗振りをするかだが、小学校PTAや幼児園保護者など将来奥出雲を支えていく世代が中心になって進めていくべきではないか。
・ 複式学級がどのようなものなのかよく理解する必要がある。今日(第2回奥出雲の教育を考える会)も色々な話を聞かせて頂き、メリットもデメリットもあると感じた。色々な話を聞いて、複式は全然だめなのかいいところがあるのか、大規模だったらどんなデメリットがあるのかよく理解して進めるべきだう。
・ 小さな拠点づくりをやっているが、小学校が閉校になったら、もっと結束していけばいいのではという意見と同時に、小学校が統合するのと小さな拠点づくりを並行して推進していく町の考えはいかがなものかという意見もあった。
・ 複式学級で育った人の話では、かえって人数が少なくて地域のつながりがより濃いものになって、地域に戻ってくる人が多いという話もあった。
〇 町全体での再編検討の進め方について
・ 教育委員会の方針は10年前に作られた答申を基にしており、今現在の状態とは全然違う。現在の状態をベースにして方針を作りなおして再度説明し直すべきではないか。
・ 複式学級が良いか単式学級が良いかは、正解はないだろう。総合戦略の中に「幸せを感じられる奥出雲」という事が書いてあるが、それがどういうことか町としてしっかり話ができるような軸をきめていかなければならないのではないか。
・ 今いる大人たち全員が腹をくくって議論をしていくべき。
・ 町としての教育のビジョンが全然示されていないという印象をだれもが思っている。どんな子を育てたいかとか、奥出雲らしい教育は何なのかとかいうことを、町として決めていかなければならない。
・ 住民一人一人がしっかりと学びながら、こういう場も大切だと思うし、学びながら考えて声をあげることが大切だ。
・ 地域住民とのつながりが大事という話が今日もあったが、各地区でも地域住民のつながりが薄れていく中で、それをしっかりしてくことが大切。
・ 説明会が終わる所だが、この件に関してこれまではきちんと段階を踏んでいないような状況だったので、今後の流れは段階を踏みながら、どんな子を育てたいかということを、町としてしっかり決めて、そのうえで、各地区の協議会に振るようにするべき。町全体の方針がないと、各地区で違う話をしてしまうので、奥出雲町全体でのテーマやビジョンが必要という話になった。
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