【イベント記録】第3回奥出雲の教育を考える会「学校再編 検討の進め方 その2」2019年8月20日
- 奥出雲あすなろ教育の会
- 2019年10月1日
- 読了時間: 13分
第3回の「奥出雲の教育を考える会」は、檜谷邦茂さんを講師に招き、「学校再編検討の進め方」について、色々な視点からの情報を採り入れて検討を行いました。
檜谷邦茂さんからは「良い再編、悪い再編、フツーの再編」と題して講話を頂きました。
檜谷さんにご快諾頂き、講演の全文を掲載します。
【学校再編の議論をすることについて】
・ 仕事で奥出雲町を担当していますが、本日は、檜谷個人で来ています。今日の講話の依頼は二つ返事で受けました。学校再編は目の前のことが変わるので、普通にびっくりすることです。いろいろな反応があるのは自然なことです。なんにも無反応に物事が進んでいく、「へぇそうなんですか、どうぞご勝手に」という方が気持ち悪いと思います。なにがしか、町民の皆さんからは色々な反応があってあたりまえだし、教育という物を皆で考えていくいい機会なのではと思います。
・ よく、講演に呼ばれると「小規模校を残すべきとか地元の学校に通わせるべきとか言ってくれるに違いない」と期待されるのですが、僕はそういうことは言いません。例えば、高校への進学は、初めて自分で決断して自分の道を歩み始める時です。その時に、自分で決断しなかった子供の人生はその後どうなるのでしょうか。自分で決められるのに決めさせない、選べるのに選ばせない、そういう環境で育つとどういう大人になるのでしょうか。ふるさと教育や地元進学が悪いとは言いませんが、熱量の大きさにちょっと不安を覚えることがあります。
・ 前回の考える会では、益田市大畑課長のお話がありました。大畑課長のお話は「“子どもたちを育てるのは子どもと学校だ”と思うのであれば地域に学校はいらない」=「地域の方々が、地元の子として育てるのであれば学校を地域におくことは考える余地がある」ということがポイントだったと思います。
【再編が良い・悪いではないが、「悪い再編」のパターンはある】
・ 再編が良い・再編が悪い、存続が良い・存続が悪い、という議論はあまり意味がないと思っています。それは価値観の違いなので議論は平行線になります。本来は、再編も存続も手段だったはずです。何かの手段として「学校を一緒にしましょう」あるいは「残ったからこんなことができる」というはずだったのに、だんだんと、再編をすることあるいは存続することが目的化してしまうという事が、学校再編の中では起きてしまう。それはいいことにはならない。
・ なぜ再編が目的化するのか。名前がダメなのではないかと思います。最初に“〇〇小学校再編検討委員会”とか“〇〇小学校統廃合協議会”とかいうのを作るじゃないですか。名前からして目的化しているんです。統廃合そのものを決めることを目的化する会を作ってしまっているのです。だから、結論が出たら役割は終わり、となる。でも、それで何か残るでしょうか。決まったんだけどこれでいいのかな、というモヤモヤ感が残ってしまう。これは、名前が悪いのではないかと。いっそのこと、町が教育魅力化協議会を作っていますので、各地区も〇〇地区教育魅力化協議会にすればいい。その中で考えることの一つに学校の在り方をテーマにする。他にも地域と子どもの関係とか、色々なことを考える中で、手段として学校の在り方はどうかというのを考えればいい。再編検討委員会となると再編を検討するだけになる。名前を変えて役割を変えたらいいんじゃないかと思います。
・ 新聞報道のような二次情報・三次情報だけで議論せず、一次情報(学校再編方針)を読んで議論をすることが大切です。
・ 再編が良い・悪いということではないですが、再編の過程で、「悪い再編」のパターンはあります。
Ø 「悪い再編」パターン1:協議会がブラックボックス化されてしまい、何をやっているかわからなくなる。
そうすると無関心層が出てしまう。いろいろな人と、学校について対話したりつながりを確認したりという作業をしていかないと、今までの学校と地域のつながりを把握せずに、新しい学校をスタートすることになります。今までの関係を切ってしまうという事も出てきます。今の状態を棚卸することが必要ではないかと思います。
Ø 「悪い再編」パターン2:賛成・反対のアンケートを取る。
これをすると、賛成派・反対派に分けてしまうので、「お前は賛成派か?反対派か?」となり、地域内で冷戦が起きます。ぶつかりあいもせず、陰口が始まります。そうすると、もし統合になったら、その後に廃校活用をどうするのかという話が出た時、地域づくりを一丸となってやろうと言っても、冷戦が続いていてできなくなる。廃校の改修も、お金を地域に落としてもらうのが目的になってしまいます。
Ø 「悪い再編」パターン3:統合した学校で決めていくことが、校名と校章と制服と校歌をどうするか・・・ということばかりになる。
教育はどうなるのかという話があまりないままだと、教育って何だったっけということになります。
Ø 「悪い再編」パターン4:存続したとしても、一人学級の現実を見ると「可哀そう論」が再発する
あの議論は何だったんだ、ということになる。
・ どういう教育をしたかったのかという話がほとんどないまま、揉めて関係が悪化するのは、「悪い再編」です。こういうことが起こらないようにしていくことが必要です。そのためには、ある程度時間をかけることも大切です。一定のリミットを決めてタイムスケジュール感を作ることも大切です。
・ いろんな話を未来志向で、みんなで笑顔を出しながら話をしていく。子どもたちをこれからどう育てていくかという事を話していく。そういうことをやっていかないとならない。学校だけにフォーカスを当てて残すか統合するかという議論だけをするとおかしくなってしまう。
・ これだけ教育の事を大人たちが考えている中で自分たちが学んでいるんだという事を子どもたちが自信をもてるようにする。自分たちの学びの事を大人たちが考えてくれているんだという事が、子どもたちにとっていい学びにつながっていく。
【再編議論の視野を広げよう①これからの教育がどう変わるのか】
・ 教育改革2020と言われています。学習指導要領が変わり、主体的・対話的で深い学びになっていく。アクティブラーニングという言葉そのものは使われていませんが、要はそういうこと(アクティブラーニング)だよね、と言われています。小学校では2020年から実施ですが、既に移行期間に入っているので、色々なことが学校で変わってきています。3つの柱「知能及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」を総合的にバランスよく育むということになっています。
・ 具体的には、外国語やプログラミング教育が必修になり論理的な考え方を学ぶ、現代国語で表現を学ぶとか主権者教育とか、いろいろ変わり、上の年代にはもうわからない位、新しいことが入ってきます。
・ 📷教育が変わる、という事がわかりやすいのでこの図を持ってきました。フランシスコ・ザビエルについての学習で、私たちの時代に学んできたのは、「これがだれか答えなさい」とか「ザビエルがしたこととして正しい選択肢をすべて選び年代の古い順に並べなさい」とかいう物でした。表で上にいくほど難易度があがります。そして、表で右に行くほど知識の活用力が求められます。B(中列)の論理的思考となると、「ザビエルが日本に来た目的を50字以内で書きなさい」などとなります。頭の中で人に対して論理的に説明できないと答えられません。知識として知っていることを整理して説明することができないとならないのです。でも、ここまでは答えがあるんです。先生も丸付けができます。問題は次、C列の創造的思考です。これは答えがありません。問としては「あなたがザビエルの布教活動をサポートするとしたらどのようなサポートをしますか」などとなります。いかに自分たちの時代が楽だったか。覚えていればよかったんです。でもこれからは、知識を自分の者として咀嚼して、どういう風に表現していくかということも問われていく。知識を覚えるだけではだめなんです。そういうことが次の学習指導要領で目指されていることなんです。僕はもう40歳ですから、小学生の時から30年たっているんです。教育が社会背景とともに変わっていっているんです。
出典:
・ 大学入試も変わります。四国学院大学の推薦入学試験の問題をお見せします。全国に先駆けた大学入試改革として実施されたもので、ディスカッションドラマという形です。グループワークの使用時間1時間で発表時間が8分から15分、「先日大筋合意に達したTPPは国内でも賛否両論様々な意見があります。賛成・反対それぞれの登場人物を想定し、ドラマを作りなさい」というものです。グループワークですからチームワークが必要です。シナリオも見られます。表現力も見られます。そもそもTPPが何かを分かっていないとこの話は作れません。答えはありません。でも、「こいつ全然わかっていないな」という事はわかるんです。
・ こういったことが今から2020年教育改革の延長線上で起こってきます。それを目の当たりにするのは子どもたち自身です。これは一夜漬けでは出来る事ではありません。普段その子がどういう感性を持ってどういう事に関心があってどういう知識を入れてどういう物の考え方をして、ということがわかるように問題に集約してださないとならない。そういう風に教育が変わろうとしている時代に僕たち・子どもたちはいます。
・ 指導も難しくなっています。未来が予測つかなくなっているので、「あっちに行けば正解だよ」「あっちに行けば幸せだよ」という事を指示してあげられないんです。子どもたちが道を指示してほしいと思っても、大人たちも答えがわからないんです。スポーツで言えばコーチとかプロデューサーとか、そういう役割をする大人が周りに増えていかないとならないんです。どういう風に現場が変わっていくかわかりませんが、学校の先生の在り方も変わっていくかもしれません。そういう風に変わるかもしれない、視野を広げてもらいたいと思ってこういうお話をしました。
【新しい学校のカタチ(事例)】
・ N校って知っていますか?通信制のインターネットだけで通える高校です。担任の先生はいますが、担任は授業をしません。生徒はインターネットを通じて動画の授業を見ます。レポートを書いたりして単位を取っていくという高校です。好きなことだけ学ぼう。嫌いなことは学ばなくていいんだという価値観です。入学式は会場に来る生徒は一部で、他の子はネットで参加します。ネット遠足、ネット部活もあります。自分のやりたい勉強の時間が増えます。学びたいことを選んで単位を取って、高校卒の資格を取ります。アイススケートの紀平梨花選手もN高です。こういう学校が増えるかどうかはわかりませんが、こういう学校を自ら選んでいる子がいるのは事実です。
・ さとのば大学というものもあります。これは、クラウドファンディングでお金を集めて作ろうとしている大学です。1年生は海士町、2年生は上勝町というように、日本を巡りそこで暮らしながら授業を受けていくというものです。
・ 僕らの時代にはなかったような教育の在り方が増えています。中学校の先生も、高校の進路指導が大変だろうなと思います。
・ 教育改革が進んでいっている中で、これから子どもたちがどんな力が必要か、親も含めてですが、考えていくことが必要だという事をお伝えしたいです。
【学校のポテンシャル】
・ 宮崎県の五ヶ瀬町というところの事例をご紹介します。「教育分権のすすめ」という本も出ています。著者の日渡さんという方は五ヶ瀬町の教育長だった人です。G授業形式を作られました。学校を統廃合するかどうかという時に、五ヶ瀬町教育長は「統合しない」という決断をしました。その理屈は、一つには、子ども・町民一人当たりの教育機関の数は多い方がいい、ということです。だからできるだけ残したい。だけど小規模校だからデメリットがあるのもわかっている。それで、複数の学校を全部で一つの学校のようにマネジメントする、というものです。授業を単元ごとにL,M,Sで分け、やることによって学習集団を変えていくという事です。例えば合唱やサッカーをするときは皆で移動して集まって授業をする。そうすると先生は余るから、Lの授業の後ろ側でSの授業をするんです。それから、時間通貨という物を取り入れました。住民に学校の事で何かやってもらったら、学校は時間通貨を払います。住民は時間通貨で学校を借りられます。学校の施設・リソースを、地域が借りたいときは時間通貨でやるんです。学校としても地域に手伝ってもらいすぎると時間通貨がなくなるので、住民に対して何かをしないといけなくなる。こうして、学校と地域の関係性を作りました。
・ 山口県の宇部市では、校長先生と公民館長が連携して学校と地域の関係の仕組みを作りました。地域から学校に祭りを手伝って等色々期待されるが、休日に業務命令で教員を動かすのは難しい、というのはよくある悩みです。それで、学校が持っているものを地域に公開する、という事を始めました。例えば図工の時間に版画を作る時に地域の人も一緒に参加できます。その時間に一緒に作品を作り出来た作品を一緒に飾る。地域住民が児童になって授業を受けられるんです。これを公民館事業としてやっています。先生方は、当初すごく嫌がったらしいです。学校の中に住民が気軽に入ってきて一緒に授業を受けるのは気も使うし、授業を評価されているような気がするんです。それでも、はじめてみると子どもたちが変わったんです。子どもたちが、案内したり地域の人が困っているところに声掛けしたり、動きや顔つきが変わってきた。それで、これはいいかもしれない、となって続けることになった。学校が持っている授業そのものが地域にオープンにできるコンテンツなんだということです。
・ 益田市の豊川小学校では、学校の一区画を中学生たちがDIYして、地域の人たちが使えるスペースを作りました。地域の人たちが入ってきて何かしているという状況が学校の中で生まれます。夜になると高校生や大人たちが集まってきて勉強会をしているというような。
・ いろんな意味で、学校というところが可能性があるのは確かだと思います。教育の在り方としても、公教育の在り方としても、可能性があるなと思います。
【学校再編で考えていくべきこと】
・ 出雲市の学校再編計画について平成24年2月に出されたパブリックコメントの結果がホームページに公開されています。これを見ると、よくある議論はだいたい乗っていると思います。例えば地域の活力が低下するのではないかとか。それに対する行政の回答も書かれています。行政にこういう質問をするとこう帰ってくる、行政はこういう理屈で考えているのだな、ということは、だいたいわかってきます。
・ 大事なのは、各地区でいまから協議会を立ち上げて議論されると思いますが、そういった協議会をどういうふうに構成すればいいかとか、どんなことを話せばいいかとか、学校についてみんなでこんなことを考えていきたいねとか、協議会を作るならこんなことはやったほうがいいよねとか、メンバーはこんな感じがいいんじゃないかとか、どういうことは大事なのではないか、やるべきなのではないか、こういうことをしないと納得感がないのではないか、といったことを、改めて考えられたらと思います。
・ 結果が統合なのか存続なのかではなく、結果が出た後に、誇りをもって教育が出来る、大人と子供、大人同士の関係性になっているかどうかということで、結果が出るまでのプロセスが大切なんです。
・ 学校にいる時間は年間1200時間と言われています。放課後と長期休暇の時間の方が学校にいる時間より長いんです。僕が言いたいのは、学校だけにどれだけ期待するかという事です。学校にもちろん学校システムの中でやれることはしっかりやってもらうということで期待してほしいのですが、でもそれ以上に子どもたちには本当は時間もかなりあり、社会全体で出来る事もたくさんあるでしょう。その中に地域を含めてどういう教育をやっていくかということをいれていかないと、学校にすべてやって欲しいとなるとパンクするし、学校自体が持っていないスキルでやってくれというのは難しい。今のタイミングだからこそ、再編協議会ではなく、教育魅力化協議会を各地区でつくってもらって、その中に、学校も含めてですが、各地区で何をやるかという議論をしていくと良いのではないかと思います。
参考資料:
宮崎県五ヶ瀬町教育委員会「へき地から挑戦する教育創生~小規模校の特性を生かした教育と魅力的な教育環境づくりを通して~」
政府広報オンライン「2020年度、子供の学びが進化します!新しい学習指導要領、スタート!」
出雲市「出雲市学校再編計画(素案)に関するパブリックコメント」
四国学院大学「「推薦入学綜合選考」実施問題の講評について」
Comments